一般社団法人出版梓会

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第41回梓会出版文化賞

第22回出版梓会 新聞社学芸文化賞


梓会出版文化賞株式会社 エトセトラブックス(東京都)
同 特別賞株式会社 太田出版(東京都)
第22回 出版梓会
新聞社学芸文化賞
株式会社 クオン(東京都)
同 特別賞株式会社 皓星社(東京都)

■梓会出版文化賞 選考のことば(選考委員 藤原 辰史)

 初めての選考委員会に、私はいささか緊張しながら参加しました。著者ではなく出版社を審査する重責は、審査の日が近づくほど強まっていきました。第一の理由は、前回の贈呈式に参加して気づいたのですが、売れずとも良書を出したいと考えている小規模出版社にとって、副賞の賞金は、もしかすると滞っている印刷代に回されることで、その出版社の寿命を伸ばすものかもしれないからです。私たちの選択が出版社の生死を決めるかもしれない、という言い方は決しておおげさではないでしょう。第二に、この賞は、著者を中心に讃える賞とは異なり、出版社のラインナップや意図、装丁や印刷、本に込められた想いなど、評価軸が多彩であって、自分が絞った出版社は本当に大丈夫なのか、ずっと迷いを吹っ切れなかったからです。

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 審査会では、事前に分厚い応募資料に目を通し、とくに自己推薦文を読みこんで、気になった出版社を各々の委員がプレゼンをしていくのですが、驚いたのは、委員の意見が意外にも分散しないことでした。たしかに候補は多数でましたが、今回梓会出版文化賞を受賞したエトセトラブックスと、同特別賞を受賞した太田出版については、それぞれの審査員の視線の交錯する頻度が高く、最終討議のなかで大きな異議もありませんでした。
 エトセトラブックスが審査会で高く評価されたのは、無理やりまとめれば、二〇一八年創業という若手出版社らしい勢いを保ち、一貫した姿勢を崩していないだけではなく、ちゃんと仕掛け続けていることだったと思います。たとえば、年二回刊行される雑誌『エトセトラ』はもっと注目されるべき刊行物だと思いますが、第一二号では「戦争」という普遍的かつ緊急のテーマを正面から逃げることなく論じられていました。フェミニスト出版社「だからこそ」直球で勝負できる。さらに、『部落フェミニズム』も同様に、エトセトラブックス「だからこそ」提示できる普遍的論点をいくつも示し、また、ほとんど知られていないブッカー賞のインド作家の翻訳本も、おもわず手に取りたくなるように丁寧に作り込まれていたように、挑戦的な二冊の翻訳書もまた審査会で評価されました。
 太田出版は一九八五年創業で、哲学書からサブカルまで幅広いジャンルの本を世に出してきた出版社ですが、今回の自薦図書に挙がった五冊に、「攻めている」姿勢を感じた審査員が多く、候補にあげていなかった審査員も納得するラインナップでした。異性愛が当然ではない豊かな世界のあり方を問う二冊の本に加え、とくに話題になったのは堂本かおる『絵本戦争―禁書されるアメリカの未来』でした。トランプ政権やネタニヤフ政権の思想弾圧に「ナチスの焚書」を思い起こす読者には、ひとつの抵抗と連帯を宣言する出版のように感じたかもしれません。さらにいえば、モスグリーンを基調としたやさしい本の雰囲気が、その戸口を大きく広げているように感じました。
 中小規模の経営体の強さは、気候や市場の変動に対して、臨機応変に自己(および家族や家族のような働き手)の労働の強度を変えられるところだ、と言ったのは農業経済学者でSF作家のアレクサンドル・チャヤーノフですが、これは逆に言えば、少数の社員の頑張りに過剰に期待がかかる、という小規模経営の難点を表しています。今回候補に上がった出版社もまた、自薦の文章を読むだけでも、そのような難点をきっと抱えつつも、出版の原点ともいうべき「楽しんでもらおう」というたくらみを忘れていないように感じました。実は、その構造を克服するためにチャヤーノフは協同組合の普及を提起したのですが、それが正しければ、この梓会や贈呈式の懇親会が、一種の「協同組合」的な役割を果たしているのかもしれません。
 今回の受賞もきっかけとなり、今後も、中小規模の出版社の横のつながりが、ますます強靭になっていくことを願ってやみません。

■ 新聞社学芸文化賞 選考のことば(日本経済新聞社 文化グループ 中野 稔)

 出版梓会新聞社学芸文化賞の選考会に参加し、贈呈式で受賞された出版社の代表の方のスピーチをうかがうたび、「私はこんな本が出したいのだ」という強い志を感じます。もちろんそれは本賞である梓会出版文化賞を受賞された方も同様です。今回もそんな志に満ちあふれた版元さんに第二十二回新聞社学芸文化賞を贈ることができました。

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 クオンからは韓国文学を日本に届けたいという熱が伝わってきました。なんといっても、朴景利(パク・キョンニ、一九二六〜二〇〇八年)さんの大河小説の完訳『完全版 土地 全二十巻』(金正出さん監修、清水知佐子さん・吉川凪さん訳)を出されたこと。完訳は日本語版が世界初ということで、選考委員一同が圧倒されました。
 「ヴィンチェンツォ」「梨泰院クラス」など韓流ドラマの脚本を手がけたクリエーターたちにロングインタビューした『韓国ドラマを深く面白くする22人の脚本家たち』(ハンギョレ21、シネ21著、岡崎暢子さん訳)にも注目が集まりました。クオンが運営する韓国書籍専門書店チェッコリでは岡崎さんが講師の「ノンフィクション翻訳ワークショップ」を開き、この本はそこで翻訳したとのこと。こうした人材育成の取り組みも素晴らしいと思います。
 応募期間の関係で自薦図書には入らなかったのだと思いますが、二〇二四年にノーベル文学賞をアジア人女性として初めて受賞したハン・ガンさんの日本語訳を出されていることにも深い敬意を表したいと思います。
 二〇一一年に「新しい韓国の文学」シリーズの第一弾として、英国の国際ブッカー賞も受賞している連作短編集『菜食主義者』(きむ ふなさん訳)を出されたのに続き、二〇一六年は長編『少年が来る』(井手俊作さん訳)、二〇一八年にはエッセー『そっと 静かに』(古川綾子さん訳)を刊行されています。とりわけ『少年が来る』は一九八〇年、韓国・光州で民主化を求める市民を軍が弾圧し、多くの死傷者を出した光州事件を題材にしています。
 選考会が二〇二五年のノーベル文学賞発表の二週間前と近かったこともあり、クオンによるハン・ガン作品の日本語訳を選考材料としてぜひ加えるべきだとの声が挙がりました。金承福(キム・スンボク)社長はじめクオンの皆さま、誠におめでとうございます。これからも韓日の懸け橋であり続けてください。
 クオンと並ぶ評価を集めたのが皓星社です。二〇一〇年に完結した『ハンセン病文学全集』全十巻をはじめ、過酷な状況に置かれた人々に光を当てる出版活動で知られる同社ですが、今回の自薦図書にもそれが表れていました。
 最も注目を集めたのは『鎌田慧セレクション一〜六』(全十二巻予定)。戦後を代表するルポライターの一人である鎌田さんが重要作品を自選するとともに、単行本未収録作品を第十二巻「拾遺」として収める予定といいます。第一巻は「冤罪(えんざい)」がテーマ。袴田巌さんの無罪判決が出たときと重なり、まさに時宜にかなっています。
 国立ハンセン病療養所・長島愛生園にある精神科医・神谷美恵子さんの名前を冠した図書室の全貌を明らかにする『長島愛生園 神谷書庫所蔵目録』とともに同社45周年にふさわしい記念事業だと思いました。
 ライター・編集者の南陀楼綾繁さんが閉架式書庫を訪ねる『書庫をあるく』もユニークでした。会長の藤巻修一さん、社長の晴山生菜さんはじめ皓星社の皆さま、誠におめでとうございます。これからも考えさせる本を楽しみにしています。

■ 贈呈式動画はこちら

第41回梓会出版文化賞、第22回出版梓会新聞社学芸文化賞(動画)

 

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