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第37回梓会出版文化賞 選考のことば


梓会出版文化賞株式会社 筑摩書房
同 特別賞株式会社 現代書館
株式会社 文一総合出版
第18回 出版梓会
新聞社学芸文化賞
株式会社 共和国

■ 選考のことば (選考委員 外岡秀俊)

 今回の選考委員会は10月6日に開かれ、右記のように授賞することを満場一致で決めました。今回は73社から250点の応募が寄せられ、5人の委員が4社まで候補を選んで選考に臨みました。候補は16社ですが、重複は少なく、筑摩書房が3票、現代書館と堀之内出版が各2票を獲得しました。
 選考はそこから始まりますが、実際に会場で全候補作を手に取り、各委員が「推薦の弁」を論じて紆余曲折の末に結果が決まります。例年、初めは5人5様で、とてもまとまるとは思えない選考ですが、推薦を押したり引いたりの過程で不思議に最後は「納得」に行きつきます。今回もそうでした。

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 選考基準は、年間を通じて秀逸な出版を行い、その受賞が会員の皆様の賛同と、さらなる意欲を引き出すことを旨としています。老舗や新規参加の如何を問わず、広く地方に目配りし、できれば規模の小さな出版社を応援したい。さらに、近年に受賞した社より、これまで選に漏れた社を顕彰したいと考えます。
 そうした基準に沿って、選考はまず各委員が単独推薦した法律文化社、ゆいぽおと、皓星社、関西大学、子どもの未来社、渓水社、緑書房、笠間書院、三省堂、地人書館、東京電機大学出版局、文一総合出版、晶文社の再吟味をしました。議論を通して、各委員が支持を変え、複数票3社を含む7社が最終選考に残りました。
 老舗の筑摩書房は、第4回の88年度にも文化賞を受けています。ただ、ずいぶん昔のことであり、しかも今回は、布陣が強力堅固でした。@松岡和子さんによるシェイクスピア全集の完結は、坪内逍遥、小田島雄志に次ぐ3人目の個人全訳の偉業です。A古代からポストモダンやフェミニズム思想まで、古今東西の知の探求を俯瞰する「世界哲学史全8巻+別巻)は、115人の論者を束ねる壮大な企てです。これと関連して、推薦図書には挙げらていませんが、日本史の「講義」シリーズを高く評価する声もありました。B平野雄吾さんの「ルポ入管絶望の外国人収容施設」は、東京五輪・パラに向けて、入管行政の「闇」がいかに濃く深く、過酷なものに転じたかを抉る渾身のルポでした。「ウイシュマさん事件」にまで射程が及ぶ「予言的刊行」と呼ぶ委員もいます。この3点を「エースのカード3枚をそろえた」との評もありました。3点が文庫・新書であり、入手しやすい形で良書を送り出した点も評価されました。
 難航したのは特別賞です。大方の評価は次第に現代書館、子どもの未来社、文一総合出版に絞られました。現代書館には「広い領域で多彩な本を出版し、編集者の感度の高さを 感じる」「近年はジャンルを広げ、ジェンダー系の本がめきめき充実。フェミニズム系の論文誌『シモーヌ』も骨太だ」などの評価が相次ぎ、いち早く先行しました。子どもの未来社にも「性教育や絵本など力作ぞろい」「保育を支える弁護士や精神科医にも役立つ本が多い」など根強い支持が寄せられました。
 ただ、「クモの巣ハンドブック」などを出した文一総合出版には、「観察は自然科学の基本。このような図鑑やマニュアルは出版文化にとっても貴重」「自然の面白さが非専門家にダイレクトに伝わる『博物学的』な視点が効いている。編集技術が極めて高い」という賛辞が相次ぎ、子どもの未来社に今一歩の差をつけて特別賞の同時授賞が決まりました。
 最後に、複数票を集めながらも選から漏れた堀之内出版について「装丁・デザインに力を入れ、モノとしての本の価値を大事にしている。セクハラ・パワハラ事件を起こした著者の出版計画を即座に取りやめた。何を出したかだけでなく、何を出さないかも問われる」という評があったことをつけ加えます。
 出版界も、変容する価値の行方を見定め、先取りしていく時代になったといえます。

■ 新聞社学芸文化賞 選考の言葉 (時事通信社 文化特信部編集委員 石丸淳也)

 選考会の1時間前、思わず職場の椅子からずり落ちそうになりました。「えっ!1人?」。充実の出版ラインアップから、随分前に「推し」の出版社は固まっていたのですが、果たしてどんな会社なのか、この段階になって把握できていないと気付き、目に飛び込んだ「従業員数」に衝撃を受けたわけです。
「共和国」。地方紙向け書評記事を編集する身として、2021年、この社名は数ある出版社の中でも印象に残るものでした。

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 普段、書評で扱う本は私から評者の方々に提案しますが、片岡一郎著「活動写真弁史映画に魂を吹き込む人びと」は違っていました。何しろ600ページ近い大著。献本は受けたものの、その重厚感から誰かに書評執筆を持ち掛けることがためらわれ、机上に置かれたままでした。
 そんな中、書評でお世話になっている早稲田大の児玉竜一教授から「ものすごい本が出た」と連絡があり、同書を評したいと手を挙げてくれました。“渡りに船”とお願いしたわけですが、同時期にノンフィクション作家の吉岡忍さんからも「友人が膨大な本を書いて、相当しっかりした本」と推薦メールが入り、どれどれとページを繰り始めました。
 無声映画の上映中、作品内容を解説する活動写真弁士。1896年から連綿と続く職業です。その現役の著者が「弁士以前」から章立て、戦後、現代に至る歴史を丹念に追う。語るような流麗な文章はさすがで、珍しい図版も多く、弁士の何たるかを知らない私の関心を引きつけてやみませんでした。
 近世までの語り芸の蓄積の上に花開いた芸能です。映画は誕生から約30年間、音声を持たなかった。何も不幸な時代ではなく、音声のないが故に能や歌舞伎、落語、のぞきからくりなど先行芸術と融合し、せめぎ合い、一つの芸術に昇華されていった。その過程が面白く、日本の語り文化の豊かさを痛感しました。周防正行監督の映画「カツベン」を見るきっかけもくれました。
 同様に映画鑑賞に導いてくれたのが、川島昭夫著「植物園の世紀イギリス帝国の植物政策」です。こちらは237ページと小ぶりですが、本体の表紙絵が透ける緑色のカバーに心を奪われました。装丁の美しさから、生態学者の鷲谷いづみさんに書評を依頼したのですが、随分と高い掲載率に驚きました。
 18世紀以降、英国が世界に進出し、植民地を経営する中、重要な役割を果たしていた植物園。その起源が物語性豊かに描かれています。先ほどの映画というのは、1789年に南太平洋を航行中の船艦で起こった反乱が題材の米映画「戦艦バウンティ号の叛乱」。タヒチ島のパンノキの苗を、植民地のジャマイカへ奴隷用食糧として運ぶ中での事件。パンノキ栽培には成功するも、奴隷の口には受け入れられず。飢餓でも味の趣向は曲げられないという逸話を面白く読みました。
 これは著者の遺作。校正半ばで急逝され、師事した志村真幸氏が作業を引き受け、刊行にこぎ着けたようです。現代の出版文化の豊かさを感じさせます。
 外見も中身も重量級の「活動写真弁史」、出版人の熱意が伝わる装丁の「植物園の世紀」。まさか「1人出版社」なんて思いもしませんでした。選考会では、これら2冊に言及しながら「共和国」を推しました。会では14社の名前が挙がり、うち7社で複数の推薦。さらなる議論で「共和国」「筑摩書房」「ミシマ社」の3社に絞られ、最終的には満場一致で受賞社が決まりました。
 まだ語りきれていません。出版点数の多さ、多彩さに驚くばかりです。代表の下平尾直さんの本作りに懸ける思いに敬意を表します。

 

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