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第36回梓会出版文化賞 選考のことば


梓会出版文化賞一般財団法人 東京大学出版会
同 特別賞株式会社 ゲンロン
第17回 出版梓会
新聞社学芸文化賞
一般財団法人 京都大学学術出版会
株式会社 晶文社

■ 選考のことば (選考委員 五十嵐太郎)

 今回の梓会出版文化賞の選考委員会は、10月初旬に開催されましたが、その直前に学術会議の任命拒否問題が発生し、委員の一人がこれに巻き込まれ、渦中の人になるというタイミングでした(その委員は所用のため、当日は欠席となった代わりに、詳細な推薦文を寄せました)。言うまでもなく、日本における学問のあり方にとって、重大な局面を迎えていた最中です。さて、今回は76社から応募書類が寄せられ、それをもとにあらかじめ各委員が四社まで候補を選んだ結果、全体としては15社が推薦されていました。そのなかで、3票を獲得したのは、東京大学出版会、二票が入ったのは、かもがわ出版、ゲンロン、朔北社です。この結果を踏まえて、選考委員会はスタートするのですが、すんなりと票数で自動的に決定するわけではありません。文化賞を絞りこむなかで、意見が割れて、白熱した議論が行われました。...続きを表示/非表示

 ユニークな本を刊行する、地方を拠点とした、あるいは小規模の出版社を積極的に表彰したいという考え方から、かもがわ出版、クオン、保育社、ビジネス教育出版社などの図書も検討されました。ただし、決定打に欠けることから、議論は降り出しに戻り、今回は梓会出版文化賞が現状に対するメッセージとなりうるような選び方をすべきではないかという視点から候補を見直しました。そこで再度、浮上したのが、東京大学出版会です。1951年、当時の東京大学総長、南原繁の発案によって設立された、国立大学としては初の大学出版部であることが注目されました。また2011年からは、彼の名を掲げた南原繁記念出版賞を創設し、すぐれた学術論文を掘り起こしながら、書籍化しています。いわば大学のアカデミズムと深く結びついた出版社であり、これまで長きにわたって、良質の本を世に送りだし、月刊誌の「UP」も継続しています。

 考えてみると、東京大学出版会は、すでに梓会出版文化賞をいつ受賞していても、おかしくなかったと言えるかもしれません。もちろん、私が専門である建築の分野に限っても、近年は興味深い書籍が続いており、2020年は長谷川香『近代天皇制と東京:儀礼空間からみた都市・建築史』や後藤武『鉄筋コンクリート建築の考古学』などが刊行されました。もっとも、特に今回は東京大学出版会を設立した南原の理念が、改めて大きな意味をもつことを想起したいと思います。敗戦後の1945年9月、彼は「大戦において、科学的知識が余りにも軽視または無視せられ、学問的真理に換えて単なる「信念」が高唱」されたことを指摘し、「日本をして廃墟の中から復興せしめるものは何か。・・・学問と教育の他にない」と述べています。南原は、大学において学問の自由が奪われていく状況を間近で体験しつつ、抵抗していたからこそ、戦後日本の礎に学問を置こうとしたのでしょう。

 一方で特別賞には、まったく異なるタイプの出版社、ゲンロンが選ばれました。大学のアカデミズム、あるいは助成金や補助金とは距離をおいた在野の運動体だからです。同社は約四半世紀前に論壇デビューした東浩紀が創業し、批評誌「ゲンロン」のほか、若手の論客を発掘しながら、彼らの著作を刊行し、さらに各種のイベントを行うカフェを運営したり、アートスクールや展覧会の企画もしています。大学を辞めた彼は、インターネットと長時間のリアルなトークを通じて、書き手と読み手を育てる、新しい「知のプラットフォーム」の構築をめざしています。かつて空気のように当たり前に存在していた出版環境が揺らいでいる現在、著述家としても評価の高い東が、自らオルタナティブなメディアを立ち上げ、2020年で10周年を迎えました。これは通常の出版社の姿とは違うかもしれません。しかし、出版の未来を考えるうえで、注目に値する活動だと思われます。学問の自由が危惧される現在、知が愛されるための複数の回路が必要なのではないでしょうか。

■ 新聞社学芸文化賞 選考の言葉 (読売新聞東京本社社 文化部次長 松本良一)

 今回の新聞社学芸文化賞は激論となりました。数次にわたる選考を経て、7社が5社、5社が3社、3社が1社……と絞られたところで、どんでん返しが。「やっぱりこれが面白い!」「そうは言っても、これも捨てがたい」「1社に絞るのは無理!」とスリリングな紆余曲折の末、昨年に続き2社の受賞となりました。...続きを表示/非表示

 京都大学学術出版会は、「ブッシュマンの民話」という本を出しました。見かけは子ども向けの絵本のような体裁です。採録・解説した田中二郎さんは、アフリカの狩猟採集民ブッシュマンの研究者。このお話が門外漢にも面白い。「カプッ、カプッ、カプッ」という特徴的なクリック音を交えた彼らの語りを、本に載っているQRコードで聞くことができます。なんだかわからないけれどワクワクする。楽しい。半世紀にわたる人類学のフィールドワークの成果をこんな形で読めるとは。

 大学出版というのは、大学での研究成果を社会に還元するのが役割です。〈京都大学「学術」出版会〉は、ちゃんと会名(一般社団法人ですから)に「学術」の文字が入っています。ところが、学術と名の付くものは、一般の人には概して理解が難しい。学術の用語は特殊・専門化が進んでいて、その筋の研究者の間でさえ議論が分かれていることがあります。それを専門外の人たちにも関心を持ってもらえるように伝えられなくては、大学出版の社会的使命を果たすことはできない。難事業です。

 もう1冊、「『女工哀史』を再考する」をご紹介します。フランス人研究者のサンドラ・シャールさんは、『女工哀史』や映画「あゝ野麦峠」を通して私たちが知っている(つもりだった)、明治・大正時代の飛騨の出稼ぎ女性労働者への聞き取りを基に、彼女たちの「失われた声」、労働観、生活史の実相に迫ります。人口に膾炙していた「女工」のイメージが、いかにステレオタイプなものだったかを知り、目から鱗が落ちました。大部の学術書ですが、方言丸出しの語り部たちの言葉からは、生きる喜びがひしひしと伝わってきます。

 この2冊のみならず、京都大学学術出版会の本は、大学と社会をつなぐ「学術コミュニケーション」の最良の見本を多く生み出しています。同会のぶれない編集方針と一般読者の心をつかむ本作りの巧みさに、選考会の出席者一同、感服することしきりでした。

■ 新聞社学芸文化賞 選考の言葉 (共同通信社 文化部部長 田村 文)

 選考会に臨むにあたって、共同通信文化部内の担当者から意見聴取し、彼ら彼女らが推す本をいくつか読みました。その結果、晶文社に賞を贈りたいと願い、選考会ではそのような意見を述べました。...続きを表示/非表示

 「つけびの村」はノンフィクションの担当記者が強く推した一冊です。「少し変わった本。はっきり言って怖い」。そんな言葉に引かれてひもときました。

 これまであまり味わったことのない読後感でした。2013年7月に山口県周南市金峰の集落で5人が殺害され、2軒の民家が放火された事件に取材したノンフィクションですが、これまで読んだ事件ノンフィクションとは全く違うテイストでした。

 従来のそれは、なぜこんな事件が起きたのか、犯人の生い立ちを追い、周辺人物の取材を重ねて動機や背景に迫る、時に社会の抱える現象や病理にまで切り込み、問題提起をする、そんなイメージでしょうか。しかしこの作品の著者、高橋ユキさんは、事件の舞台となった村そのものに巣くう因習やうわさに迫っていきます。村に分け入り、地道に一つ一つ、それらと事件の関連をつぶしていくのです。村が抱える闇が徐々に見えてきます。それは不穏で、息苦しい。繰り返し出てくる「うわさ話」という言葉の禍々しさが際立ちます。

 18年にウェブサービス「note」にアップした6本の記事に、追加取材して加筆修正し、書き下ろした作品であり、そうした出版の経緯も新しいと思います。

 論壇担当記者に強く薦められて読んだのは「急に具合が悪くなる」です。哲学者でがん患者でもある宮野真生子さんと、医療人類学を専門とする気鋭の学者、磯野真穂さんの往復書簡です。病に、死に、直面しているからこそ、つむぎだされる言葉があり、対話があります。病や死の近くにいることによって、逆に旅立ちや別れでなく、「出会い」という言葉がクローズアップされていきます。

 本書を読んで私は、亡くなった知人・友人たちの顔を思い浮かべました。そして無性に話がしたくなりました。往復書簡の意義を感じさせる本だったと思います。

 2冊とも、出版社の新たな可能性を感じさせてくれました。その他の仕事も含め、敬意を表したく思います。

 

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